スペイン渡航記~ノエル・ビリングスリー(ID賞)

 第35回スペインギター音楽コンクールにてID賞を受賞し、スペイン最大級のフェスティバルに参加されたノエル・ビリングスリーさんが、素敵なレポートを書いてくださいました。12月発行の会報にも掲載しております。充実した旅の様子、刺激をたくさん受けて今後の演奏活動が益々期待されるノエルさんのレポートから、この賞が本当に素晴らしい賞であることを改めて感じています。この渡航に際して参加費免除等の多大なるバックアップをしてくださったフェスティバル主催者であるペペ・パジャ(Pepe Payá)氏にも大変感謝申し上げます。
 今回も引き続きID賞を授与してくださったインフォメーション・ディベロプメント社に改めまして感謝申し上げますとともに、ノエル・ビリングスリーさんの今後のご活躍を祈念いたします。

スペイン渡航記~ノエル・ビリングスリー
第35回スペインギター音楽コンクール優勝
参加フェスティバル:ホセ・トマス国際ギターフェスティバル
http://www.guitarrapetrer.com/en/2018

 先ずはこのスペインでの体験の機会を下さったInformation Development社に心より感謝を申し上げます。

 7月6日スペイン南部、アリカンテ県にあるペトレルという小さな村に降り立ち、まず最初に感じたのはスペイン独自の乾燥した空気でした。その日はホステルのオーナーであるホセに自転車で村を紹介してもらい部屋に戻り少し練習した後、時差ボケもありその日は早めに休みました。

 7月7日この日は朝から自分の足で村の散策をし、スペイン南部特有のイスラム教とキリスト教の入り交じるこの小さな村でその地の歴史に触れる事ができました。村のてっぺんに位置するペトレル城の入り口には小さな人だかりができていて、勇気を振り絞り挨拶をするとちょうどお城のガイド付きツアーが始まる時で、運良くそのツアーに参加させてもらい、さらに運が良かったのはそこにスペイン系アメリカ人がいてガイドの言うことを英語で説明して頂きました。

ペトレル城までの古路
ペトレル城までの古路
ペトレル城からの眺め
ペトレル城からの眺め

 お城自体はイスラム系建造物で、たった80年前までお城の山に穴を掘り家を建てるお金が無い人々が洞窟で暮らしていたみたいです。下の写真で分かるようにイスラム系建造物の中にキリスト系の礼拝堂があります。

車窓から見えるペトレル城
車窓から見えるペトレル城
礼拝堂
礼拝堂
当時を再現した洞窟の家
当時を再現した洞窟の家
当時を再現した洞窟の家
当時を再現した洞窟の家

 7月8日は今回の旅のメインテーマでもあるペトレルギターフェスティバルが始まる日でした。初日のオープニングコンサートを努めたのは古楽器奏者のホセ・ルイス・パストル。一曲ずつ楽器を変え、丁寧な説明を交えての演奏会でした。一つ一つのフレーズがとても美しく、奏者の優しさが滲み出る演奏でした。

 7月9日、このは日ホセ・トマス国際ギターコンクールの第一次予選が行われ、僕も参加させて頂きました。結果は予選落ちとはなりましたが、自分の何がいけなかったのかがよくわかりました。初めての国際コンクールで、テクニックを見せる事に必死になりすぎ、自分の音楽ができなかったのが敗因であったと思います。参加者全員34名がここで10名に絞られる。他の国際コンクール優勝経験者も突破できなかったのだから、コンクールというのは時の運というのがよく分かりました。
  
 7月10日、異国滞在の醍醐味である(と思います)現地スーパーマーケットでの買い物を済ませ、第二次予選を聴きに行きました。リストを見ると世界中でコンクール荒しをしているギタリストの名前がぞろり。去年からのEurostringsとのコラボレーションが始まったこともあり、賞金やツアー権を狙い世界中から集まるコンクールに成長したらしい。10名の中からほぼ予想通りの4名が選ばれ、ここでまた去年の東京国際第二位やアルハンブラ国際上位入賞者も落選。同夜、メインゲストの一人のロベルト・アウセルの演奏会が行われ、音が響き過ぎるのが残念でしたがアウセルから魔法のように出てくる音が教会を埋め尽くし、聴き手を完全に魅了しました。

 7月11日、この日はめぼしいイベントは無く、たくさんのマスタークラスが行われました。僕はアウセルのマスタークラスを受講し、姿勢のことを第一に指摘されました。アウセル曰く地面から両足が伸びて、肩甲骨が自由に動く姿勢を見つけることが大事だと。受講曲には選んだ曲がブリテンのノクターナルだった為、あまりの長さに細部までできなかったのが残念でした。しかし第一楽章では自由にと書かれているが、もう少し書かれているリズムに忠実に弾くことを勧められ、二楽章では、ffと書かれていても次のクレシェンドまで持っていく場合は、アライレで弾くことを勧められました。

ロベルト・アウセル氏と

 7月12日、今日はマルコ・ソシアス氏によるマスタークラス。ソシアス氏の事は知りませんでしたが、とても為になるレッスンでした。今は亡くなったロドリーゴとも面識があり、受講したヘネラリーフェのほとりは彼にとって特別な曲らしく、かなり濃いレッスンをしてくれました。
 まず指摘されたのが、自分で音楽を工夫しすぎていること。良いことともとれますが、曲の音楽自体が持っている美しさをそのまま出すには素直に弾くことも大事だと。このコメントは自分にとって目からうろこ的で、自分は今まで頑張りすぎていたのかなと考え直す機会になりました。

マルコ・ソシアス氏と

 同12日はホセ・トマス国際コンクールの本線があり、国際コンクール常連ギタリストの演奏を聴くことは自分にとって大きな刺激になりました。全員がかなりハイレベルな演奏を披露しましたが、結局1位はなく、2位がジュリア・バラレーという世界的にも注目が集まっている女流ギタリストという結果になりました。このあとホステルに戻り他の参加者とのBBQパーティーがあり遅くまでギターについて語り合ったり、それぞれの国の話をしたりとか楽しい時間を過ごしました。

 7月13日、この日は今回の旅のもう一つの目的である自分のギターの製作者であるビセンテ・カリージョ氏のワークショップに訪れました。色んなギターの試奏やギターのパーツそれぞれの木材を見せて頂いてとても興味深い体験でした。ギターがどうやって作られるのかを一から見せても貰いました。その後はラ・マンチャにあるワイナリーを訪れ、ワイン片手に採れたてのトマト、生ハム、チーズ、しめにパエリアも頂いて、言う事無しでした。


 7月14日、この日はスペイン滞在最後の日。朝はマスタークラスで指摘された事を意識しての練習。いつの間にかホステルの仲間と卓球トーナメントが始まり、最後の日に楽しい思い出を作れました。夜はリカルド・ガジェン氏によるコンサート。ブローウェルのソナタから始まり、アーノルドのギターとストリングスの為のセレナーデ、最後に世界初公演となるブローウェルのギター協奏曲は圧巻のパフォーマンスでした。





 最後にもう一度この機会を下さったインフォメーション・デベロップメント社に心より感謝を申し上げたいとおもいます。スペインに行くことが僕にとって初めての経験であり、異文化に触れる機会、フェスティバルに参加する機会、そして多くのギタリストと知り合える機会を作って頂いたのは僕の人生にとって大切な経験になると思います。この機会をにどうにか次に繋げればと思います。

ノエル・ビリングスリー プロフィール

15才よりエレキギターを独学で始める。19才でクラシックに転向。始めて僅か6年でロンドン、トリニティーカレッジオブミュージックを首席で卒業後英国内外で演奏活動を行う。2002年にはバース国際ギターフェスティバルでは、ジョン ウィリアムズと共演。

2011年沖縄へ移住以来、精力的に演奏活動を行う。2015年日本ギターコンクール二位無しの優勝、大阪府知事賞授賞。2016年クラシカルギターコンクール優勝。2017年、第35回スペインギター音楽コンクール優勝。同年、沖縄では初となるロドリーゴのアランフェス協奏曲を大渡室内楽団と共演。